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早い治療開始の有効性
 交通事故は、起こさないにこしたことはありません。でも、2018年の発生件数は約40万件。日本の人口が約1億2000万人とすると、一年のうちにだいたい300人に一人は事故を起こしている計算です。人口のなかにはクルマを運転しない子どもや高齢者も含まれていますし、さらに、事故には相手がいることを考えると、ドライバーは、そうとうな確率の高さで事故に遭うことになります。事故は起こさないではなく、起きるものと考えて、対策をする必要があります。

 事故を起こさない→起きても怪我をさせない。そのために、シートベルトなどのパッシブセイフティ技術がありますが、さらに今は、怪我をしても死亡を重症に、重症を軽症にするべく、医師の早期治療開始が求められています。その最たるものが、ドクターヘリです。大量出血で血圧が下がっても、医師が早く患者と接触できれば、すぐに輸液と薬を使って血圧を維持することができます。衝突のときにシートベルトで胸を圧迫されて折れた肋骨が肺に刺さり、肺の空気がもれて呼吸困難に陥って最悪、死亡する気胸も、医師がいれば肺の外にたまった空気を体の外に出す治療がすぐに行えます。

 ドクターヘリの要請は、消防本部が行います。指令室に119番通報が入ったときに、指令係が重症だと判断したら出動を要請しますが、その間の時間をもっと短くしようというのが、D-Call Netです。


D-Call Netとは
 D-Call Netは、これまであった事故緊急通報システム(車両が衝撃を受けるとヘルプネットなどのコールセンターにつながる)をさらに進化させたもの。車両がどのくらいの衝撃を受けると、乗員がどのくらい怪我をするか、これまでの交通事故の事例を分析してアルゴリズムを作り、「重症になる衝撃」の基準を設けました。これにより、事故緊急通報システムを搭載している車両が事故を起こすと、119番通報がなくても即座に該当する道府県の消防本部とドクターヘリの基地病院に連絡がいくという仕組みです。

 夜間など、ドクターヘリが飛べない時間帯はどうするか。また、事故緊急通報システムを搭載している車両がまだ少ないなど、まだまだ課題はあります。ただ、一年ほど前に、女性が乗車していたクルマが道のわきに落ち、何日も発見されなかったという痛ましい事故のケースを考えると、「D-Call Netが装着されていれば」と思わずにいられません。

 現在の日本では、軽自動車のニーズが高まり、乗用車の半数に迫る勢いで販売されています。そして、先日発表された日産デイズには、軽自動車でありながらこのシステムが設定できるようになりました。こうした新技術は高価なものが多く、とかく高級車から採用して数が増えて価格が下がってきたら小さなクルマに展開する、ということが多いのですが、ユーザーメリットの高い技術を販売台数の多い軽自動車に積極的に採用する姿勢は、心強いと感じます。事故は起きるもの。でも、その後の被害をいかに小さくするか。デイズに続いて、一般の人が多く乗るコンパクトカーにも、D-Call Netが早く普及していくことを期待しています。


モータージャーナリスト・ノンフイクション作家 岩貞るみこ
企画編集:三井住友海上火災保険株式会社 営業推進部・モーターチャネル推進チーム 
     エーシー企画株式会社