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 ホンダのハイブリッド技術を体現するハイブリッド専用モデル、インサイトがおよそ5年ぶりに復活しました。初代インサイトは、ホンダ初のハイブリッド車として2002年に発売され、量産ガソリン車として当時の世界最高となる35.0km/L(10・15モード)の燃費性能を記録しました。ハッチバッククーペの2シーターに、リアホイールスカートを採用するなど、異色のシルエットが特徴でした。2代目インサイトは2009年にフルモデルチェンジとなり、トヨタプリウスを意識した5ドアに変更されました。そして今回、フルモデルチェンジされた3代目は、本格セダンとして一新、従来のインサイトとは全く異なる車型となり、2018年12月14日に発売されました。全長4,675mm×全幅1,820mm×全高1,410mmのスタイリシュなデザインが特徴のミドルセダンです。

モーターを改良し、i-MMDは更に進化を遂げた
 インサイトのパワートレインは直列4気筒DOHC1.5リッター「LEB」型エンジンに2モーター式ハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-MMD」を組み合わせています。システム構成はホンダ・クラリティ(AUTO ホットライン2018年10月号)と同様ですが、今回「i-MMD」として初めて、高耐熱性と高磁力を兼ね備えた重希土類完全フリー熱間加工ネオジム磁石を採用したモーター(次章に詳述)に変更するとともに、小型化したCPUを搭載するなど、ハイブリッドシステムを改良し、走行性能を高めています。その結果、エンジンの最高出力は80kW(109PS)/6000rpm、最大トルク134Nm(13.7kgfm)/5000rpm、モーターは最高出力96kW[131PS]/4000-8000rpm、最大トルク267Nm[27.2kgfm]/0-3000rpmを発揮、燃費はWLTCモードで28.4km/L、JC08モードで34.2km/L(LXグレード)としています。
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パワートレインのスケルトンイメージ(LXグレード)


重希土類完全フリーのネオジム磁石を初採用したi-MMD
 前章で重希土類完全フリー熱間加工ネオジム磁石について触れました。これはホンダが世界に先駆けて開発・実用化した新技術です。駆動モーターを構成する磁石には耐熱性が求められるため、重希土類と呼ばれるレアアースが使用されています。しかしながら、レアアースはその希少性ゆえ、しばしば価格の高騰などで仕入れなどが不安定になる課題を抱えています。そこで、開発されたのが熱間加工という製造方法による磁石です。微細なナノ結晶構造を持つ材料を熱しながら圧力を加えて押し出す成形方法によって重希土類を使用しなくとも、十分な耐熱性を確保することが可能となりました。この重希土類完全フリー熱間加工ネオジム磁石は、2016年にフルモデルチェンジされたフリードハイブリッドのハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-DCD」に初めて採用されました。そして今回、「SPORT HYBRID i-MMD」にも初採用されたのです。
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ホンダと大同特殊鋼株式会社が共同で開発し、
実用化させた重希土類完全フリー磁石



シフトレバーレス、ボタン化するシフトセレクター
 クルマの電動化によって、シフトレバーにも変化が起きたことはご承知のとおりです。シフト・バイ・ワイアの技術によって、シフトチェンジを行う、いわゆるセレクターのレイアウトに制約がなくなり、レバーサイズの縮小化やレバーの入力方向の変化まで、その種類は多様になっています。クルマによっては、どのような操作をしていいものか戸惑うものさえあります。今回、フルモデルチェンジされたインサイトのシフトセレクターはボタン式が採用されました。センターコンソールに配置されたボタン式のシフトセレクターによってドライブやパーキングにシフトチェンジを行います。この機構はホンダ・レジェンドでも採用されてきたもので、新技術ではありませんが、今後はボタン式がポピュラーになってくると思われます。なお、このシフトセレクターには回生ブレーキを調整するBシフトはなく、ステアリングに設置されたパドルによる減速セレクターにより、アクセルオフ時の減速度を3段階に変更することができます。この減速セレクターは旋回や右左折の手前、降坂路、前走車との車間をあけたい時などに使用します。減速セレクターはすでにアコードに搭載された技術ですが、パドルシフトのように使用できることから、利便性の高い機能として評価されています。
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ボタン式のエレクトリックギアセレクター


スタイリッシュな印象を刻み込むLEDヘッドライト
 インサイトの洗練された外観を決定づけているのが、切れ長のヘッドライトではないでしょうか。インサイトではインラインタイプのフルLEDヘッドライトを全車で採用しました。LED光源をリフレクターで反射させるインラインタイプのヘッドライトはロービーム6灯、ハイビーム3灯で構成されています。一見、グリルの一部がヘッドライトユニットにせり出し、ランプが上下に分割されているように見えますが、ユニットはアッセンブリーで一体化されています。なお、グレードEXとEX・BLACK STYLEは、フロントバンパーの両サイドにLEDフォグランプが装着されます。
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クォーターパネルの一部にまで伸びるヘッドライトユニット(左)とLEDフォグランプ(右)

補機バッテリーの搭載位置に注意  歴代のインサイトはハイブリッド専用モデルとして生産されています。今回発売されたインサイトもハイブリッド車のみの設定です。言うまでもなく、ハイブリッド車は駆動用バッテリーの他、12Vの補機バッテリーを搭載しています。2代目インサイトの補機バッテリーは従来のガソリン車と同様、エンジンルームに装着されていました。しかしながら、新型インサイトの補機バッテリーはセンターコンソールの左横(助手席側)に格納されています。補機バッテリーの脱着は助手席側のセンタコンソールサイドパネルを取り外してから実施します。なお、車両前方側がプラス端子、後方側がマイナス端子と12Vバッテリセンサーが装備されています。ちなみに、補機バッテリーの形式は46B24R AGMです。
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補機バッテリーはセンターコンソールの大型コンソー ルトレー
(5.5inchと書かれている部分)の下あたり に格納されています



新技術によって構成されているホンダの新世代プラットフォーム

 インサイトの骨格にはホンダの新世代プラットフォームが採用されています。このプラットフォームには、全体の骨格部材を組み立ててから外板パネルを溶接する「インナーフレーム骨格構造」や、サスペンションからの入力を効率よく分散させるため、リヤシート後方のリヤバルクヘッドに断面部材を環状に配置する環状リヤバルクヘッド、そして大断面のセンタートンネルと井桁状に配置した骨格部材でフロア剛性を向上させる高剛性・低振動フロア構造を用いるなど、新技術を惜しみなく投入しています。
 一方、センターピラースチフナとリヤフレームには、ソフトゾーンテクノロジーによる異強度ホットスタンプ材を採用しました。この技術は単一部品内に、曲げと耐力に優れた1500MPa級部分とエネルギー吸収特性に優れる550~650MPa級部分を形成するというもので、必要強度に応じてハイテン材を使い分けることで、衝突安全性能と高剛性ボディー骨格を実現します。なお、アルミニウム合金はボンネットフードのみ採用されています。
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 インナーフレーム骨格構造

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 環状リヤバルクヘッド

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 低振動フロア構造


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 ハイテン材適用箇所と使用比率グラフ


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 異強度ホットスタンプ(センターピラースチフナ)

画像:本田技研工業株式会社 Honda Media Website、インサイト広報資料より



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企画編集:三井住友海上火災保険株式会社 営業推進部・モーターチャネル推進チーム 
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